お客さまの声

004.職人の技術とオーナーの想いが集結した「ミトベ写真館」。

004.職人の技術とオーナーの想いが集結した「ミトベ写真館」。

茨城県古河市で、80年以上も営みを続ける「ミトベ写真館」。ウェディング、マタニティ、お宮参り、七五三、成人式......地域のみなさまの人生の節目である瞬間を幾度となくとらえ続けてきたのが、オーナー兼カメラマンのIさまです。

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ミトベ写真館が現在の姿に生まれ変わったのは、2016年のこと。設計担当、施工担当、施工主、この3者の力が融合し完成したこの空間が、どのようにして生まれたのか。デンマーク語で"人と人とのふれあいから生まれるあたたかな居心地のいい場所"という意味をもつ「HYGGE(ヒュッゲ)」と名付けられ、第二回古河市景観賞受賞という経歴を持つこの建物。当時のエピソードをふくめ、建物のこだわりや設計の工夫についてお話をうかがいました。

時間を忘れて見入ってしまうほど、徹底した世界観が体験できるエントランス。

和風建築を連想させる、白を基調とした外観。アンティーク調の木製扉から中へ足を踏み入れると、その徹底した世界観に驚き、感動する人がほとんどではないでしょうか。建築やアートに精通した人ほど、この場所に何日でもいつづけられる......そう感じるほど、ミトベ写真館はこだわりにこだわりを重ねた空間となっています。

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入ってまず目に入るのが、施設内へと続くエントランス。両方の壁に、日本画や洋画、陶磁器など年代物の美術品が並んでいます。

Iさまの祖父が長年集めていたというコレクションをメインに、現代アート作品も数多く展示。近代の作品については、主にIさま自身が買い付けたものだそう。中でも、画家・野沢二郎氏の作品が際立ちます。

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エントランスを抜けた先には、受付やカウンターキッチン、カフェスペースに打ち合わせブース。普段、写真の撮影を行うのは2階だそうで、まずはホールように広いメインスタジオにて、芦葉工藝舎のスタッフと会談の場を設けさせていただきました。

設計視点、施工視点、施主視点......それぞれの立場で追求しあう、究極の空間。

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「この写真館は、両親が住む家や僕の自宅を建てるときも依頼した建築事務所に設計してもらいました。施工をどこに担当してもらうかの話になったときに紹介してもらったのが、芦葉工藝舎だったんです」と、芦葉工藝舎との出会いを振り返るIさま。

Iさまのイメージを理想通りのかたちにするには、木を専門に扱い、信頼できる技術を持つところに依頼した方がいいというアドバイスが建築家からあったそうです。

「この建物は、設計担当、施工担当、それから僕の3人で建てたという感覚ですね。設計する人は空間のイメージはできても、実際の細かい使い勝手まではわからないでしょう。ここは一般住宅ではないし、実際に人の流れがどうあって、どう過ごすかの具体的なイメージは僕しか持っていないから、それを彼らに伝えて。そして、実際の空間になったときにどうなるのか、不具合はないのかなどを、芦葉工藝舎の職人が判断しながら建てていく......という流れでつくりました。建築条件などをクリアした上で、僕のイメージ通りの空間になるよう、さまざまな工夫をこらしてもらっています」

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クリエイターとして豊富な知識を持つIさまは、素材の選定にも積極的に関わっていたそう。ご自身でさまざまなメーカーを調べ、ときに実際に素材が使われている現地まで視察におもむき......建築家や棟梁たちと切磋琢磨しながら、一緒につくりあげたのだとか。

芦葉工藝舎のスタッフも、「Iさまは素材や建築物に対する知識が本当にすごくて」と感心している様子。その博識さは、空間に関するこだわりをうかがっているだけでも、十分に伝わってきます。

「今僕たちがいるスタジオの床材はチークを使っていますが、これはダンスフロアなどにも採用されているものなんですよ」

カメラや器具を頻繁に動かし、人の往来も多いスタジオの床は、人が歩いても滑りづらく、傷付きにくいものをと選んだのだと言います。

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「スタジオに続く廊下の床は、テラコッタを使っています。既製のものだとすべて同じかたちになってしまうのですが、職人さんが手流しでつくったものを使っているのでどれもかたちが違うんですよ」

そうやってIさまは、施設内で使用している素材について、一つひとつ丁寧に説明してくれました。

和を感じるスペースから西洋の雰囲気が漂う空間など、ひとつの建物内でさまざまな世界観が味わえるのは、撮影スタジオならでは。また、名作チェアと呼ばれる椅子がいたるところに置かれているのも気になります。

「ここに置いてあるチェアは、主に撮影時に使っています。この黒いソファは100年以上前につくられたイングランドのアンティーク。当時のチェアは猫脚のものが多いのですが、これは珍しく猫脚ではないところが気に入っています」

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「そっちのソファは70年代前半に製造されているヴィンテージ。ハンス・J・ウェグナーというデザイナーの作品ですが、彼の作品はこの建物内にもたくさんありますよ」と、貴重なコレクションについてひとつずつ語ってくださるIさま。建物の設計のみならず、その空間の完成度を高めるインテリアにも徹底した世界観を感じます。

条例を守りながら、無垢の素材を理想通り使えるように。

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施工時のエピソードやメインスタジオのこだわりについてお話をうかがった後は、実際に施設内を案内してもらいました。

「2階のフロアへと続く階段や床の素材は、裸足で歩いてもケガをせず、気持ちよく過ごせるものを条件に探していました。やっぱり、柔らかい無垢材じゃないと、素足で歩いたときに冷たく感じるんですよね。1日に何名もの人が訪問するので、スリッパをその度に一つひとつ用意するよりも、誰もが素足で気軽に歩ける方がいいと思ったんです。これは僕がいろいろとフローリングの商社を調べているときに見つけたアジアンゼブラウッドというものを取り寄せて」

「この土地は防火地域なので建物の制約が多いんですね。完全な木造建築にするのが難しいため、2階の窓枠などはアルミの素材に木をはさんで木製建具に見立てているんです」

防火機能の高いアルミ素材がむき出しのままだと、Iさまのこだわりたかった無垢材の雰囲気を演出しきれない......という問題を見事に解決した窓枠。どこか異国の文化を感じさせる世界観の裏側には、作り手の知恵と技術の結晶が隠れているようです。

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「外観の板金は見ましたか?あれも、職人泣かせの仕様だったと思います。一枚の板を幾度にも折り曲げているので。それから、建物を支える4つの柱も、条例の観点からすべて木製にするのが難しく、柱を木で囲うことで木の印象を持たせています」

施工主であるIさまと、設計した建築家、そして、そのイメージや想いを現場でかたちあるものへと表現していく職人たち......。それぞれが切磋琢磨しあう関係があったからこそ完成した空間の美しさに、圧倒されます。

素材の持ち味を、そのまま活かして。空間美を高める欅(ケヤキ)の一枚板。

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続いて、1階へ。印象的なのは、料理が好きだというIさまの想いがつまった本格的なキッチンカウンター。その反対側には、撮影した写真の選定を行うお客さまとの打ち合わせスペース。奥には暖炉やウッドデッキもあります。

「お客さまが大勢いらっしゃったとき、小さなキッチンスペースだとお茶出しがスムーズにできないんですよ。そうした事情もあって、この広さのキッチンをつくってもらいました」と、話すIさま。

芦葉工藝舎のスタッフによると、Iさま自身も相当なお料理上手なのだとか。お客さまを招いたパーティをひらくときは、このキッチンで腕をふるうそうです。

キッチンカウンターに使われている欅の1枚板は、芦葉工藝舎が所蔵していた無垢材のひとつ。以前、「手仕事のコラム」でもご紹介したことがある選りすぐりの逸品です。

「同じ欅の一枚板がうちにまだありますが、これだけ見事な一枚板をそのままの状態で使っていただけるのは私たちとしても非常に嬉しいことですね」と、芦葉工藝舎のスタッフ。

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キッチンカウンターのうしろに置かれたテーブルも、同じく欅の一枚板。全長5mある存在感を放つテーブルですが、ミトベ写真館の雰囲気によく馴染んでいます。

人と人とがつないでいく、ミトベ写真館と芦葉工藝舎の信頼関係。

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「ときどき、芦葉工藝舎のお客さまも施設を見学に来てくれますよ」と、Iさま。撮影などの予定が入っていないタイミングなら、自ら施設を案内し、素材や設計について説明されているそうです。

「ミトベ写真館へ見学に行かれたお客さまは、"うちもミトベ写真館のようにしたい"と言ってくださることが多いですね。Iさま自身が建築にも素材にも詳しいから、私たちが説明する前に"それ、ミトベ写真館でも聞きました!"と言われることも多くて。本当に、私たちの要となる建物のひとつだと感じています」と、芦葉工藝舎のスタッフ。

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Iさまは芦葉工藝舎のギャラリーへもよく遊びに行かれるそうで、取材中は芦葉工藝舎のスタッフとプライベートな話題でも盛り上がっていました。同じ建築好きとして、それぞれの道を極める一流の職人として......目を向けるものが近しいところがあるのかもしれません。その後も、京都の老舗店で自ら買い付けたという着物が並ぶ和室、撮影に来たお客さまのメイクやヘアアレンジを行うブースなど、いろいろな空間を案内していただきました。

まだまだ、記事では語り尽くせない魅力が満載のミトベ写真館。記事を読んで興味がわいた方はぜひ、芦葉工藝舎までお問いあわせください。ミトベ写真館への見学のご案内や、芦葉工藝舎のギャラリーのご案内など、詳しくさせていただきます。