51. 120年前の大工が込めた想いを紐解く。
芦葉工藝舎には、家に関するさまざまなご相談をいただきます。
新しく家を建てたい、住み慣れた家をリノベーションしたい......
その中でも特に印象的だったのが、
「代々受け継いできた我が家の離れを建て直したい」という依頼。
今回は、そのことについてお話をしたいと思います。
本家とは別に、趣味や憩いの時間を楽しむ空間として
離れが建てられたのはおよそ120年前。
明治時代の大工が手がけたその仕事には一切の無駄がなく、
間取りの設計、部屋から見える庭の景色、床の間の収まりなど、
細部まで手間をかけてつくったことが見てすぐに伝わってきました。
中でも私たちを驚かせたのが、
屋根の瓦、床の間の地板、書院の襖、筆返し、建具など、
どの素材も"家を建て直すときに再び使う"と想定された造りになっていたこと。
さらに言えば、柱などに使われるいくつかの木材は
その家が建つ以前にも素材として使用されていた痕跡が見受けられたことです。
初代から二代目、三代目へ......。
もしかすると、もっと世代を重ねているかもしれません。
100年以上の時を超えても尚、家づくりに使用できるという、
職人の素材を見極める力や技術の高さに、ただただ感服するばかりでした。
お客様からの要望は、「今の雰囲気をのこしたまま建て直したい」。
そこで私たちは、離れの図面を書き直すことからはじめました。
現代の暮らしにそぐわないところだけを直し、
活かせるところはそのままのこす......
さらに、解体した素材は一つひとつきれいに磨き上げ、
離れを建てた大工の読み通り、可能な限り再び使わせていただく......
一つずつ、じっくりと見直し、丁寧に作業を重ねながら、
現在建て直しを進めている真っ最中です。
完成すればまた、以前と同じように庭の景色を眺めたり、
趣味に没頭したりと、優雅なひとときを過ごせるようになるでしょう。
古くから受け継いできた家の"これから"を考えるとき、
大抵の人は「今のまま残す」か「こわして建て直す」の二択で悩みがちです。
しかし、私たちが大切にしているのは、そのどちらでもない
「いいところを残し、必要なところだけ手を加える」ということ。
その家に宿るたくさんの記憶を、
これからも大切にし続ける方法を提供することが、
私たちの使命であると考えています。