35. 人と大工の関係性が、郷土愛を育む。
生まれ育った地域で暮らし続けることや、
土地や名前、仕事などを親から子へと受け継いでいくこと。
その風習は、数十年前まで当たり前のように行われてきました。
しかし、時代が流れる中で社会やライフスタイルは大きく変化。
故郷を離れ、見知らぬ土地で新たな生活や仕事をはじめ、
家族を築いていく人々が増えてきました。
親子3代が暮らす大きな家よりも、
家族4人程度が暮らす手頃な家が求められるようになり、
地域との関わり方や家族の形式が変わっていく中で、
「郷土」や「継承」に対する考え方も変わっていったのです。
大工も、以前は「農家を営む山田さん」「伊藤さんの家の長男夫婦」など、
昔から馴染みのある人やその家族の家を建てるのが主流でした。
しかし最近では、街中で分譲住宅を見かけるように。
分譲住宅は、建設期間の短さや値段の安さ、
経験の浅い大工でも建てられるなどの利点はあるものの、
大抵、「誰が、どういう目的で住むのかを考える」部分が
すっぽりと抜け落ちてしまっている状態です。
私たちはこれまでに多くの家を建ててきましたが、
誰が住むのか想像すらできない家と、
その人の顔や名前、性格などを知っている人の住む家なら、
後者の方が自分の技術を十分に発揮できると感じています。
大工と地域のみなさまが交流を重ね、
顔を見れば挨拶を交わし、お互いを名前で呼び合える関係を築くこと。
それは、良い家をつくる上で、
技術を磨き抜くのと同じぐらい大切なことです。
だからこそ私たちは地域の家守として、
「この地域が好き」「この街の人たちと仲良くなりたい」
そんな郷土愛が芽生えるような「交流の場」をつくってきました。
ギャラリーで開催しているイベントも、そのひとつ。
こども大工さんやアルバム制作、石鹸づくりといった定例イベントの他、
5月には講談師・神田松之丞氏によるイベントも企画するなど、
今後も、より地域のみなさまに楽しんでいただける行事を考案中です。
芦葉工藝舎はこれからも、地域のみなさまの期待に応えながら、
家づくりの技術を磨くと同時に、地域全体の郷土愛を育んで参ります。